八代目儀兵衛のビジョン

新しいお米の価値をつくる

1995年にお米の販売が自由化され、家業の米屋の売上げが激減する中で、私はサラリーマンを辞め、家業に戻るまでの1年間、米問屋で修業をしました。米屋の何倍ものお米がある米問屋での修業を通して、食味を言葉で表現するデータベースを作ることを考えました。

家業に戻った私は、自分も何とかお米屋として新しい形を作りたいと思い、商品開発を行い、新聞広告を出したりしましたが、結果には繋がりませんでした。このような苦い経験を経て、八代目儀兵衛という会社を立ち上げました。

新しく会社を立ち上げたきっかけの1つは、「インターネットでお米を売り、日本一の米屋にならないか」という大学時代の先輩からの1本の電話でした。当初は先輩からの提案をお断りしましたが、その1か月後に先輩から再び電話があり、私はここが自分の人生のターニングポイントだと思い、東京に出向き先輩から紹介された7人の経営者と会いました。彼らにインターネットでお米を売るためのアイデアを尋ねたところ、7人の経営者のうち、クリエイティブディレクターの仕事をしている人が、「お米には、未来があるのではないですか」と言ってくれました。その後、その彼と「一緒に新しいお米の価値を作ろう」と意気投合し、私と先輩と彼とで、今の商品を作りました。

八代目儀兵衛が目指すもの

1965年から2013年までの間に、日本人1人当たりの年間のお米の消費量は約半分に減り、さらに今の若い人たちや30代のお母さんたちは、お米は太るからと言って食べません。 また量販店の間でお米の価格競争が起こり、主婦たちが安くて美味しくないお米を買うため、お米の美味しさが分からない子供たちが増えています。今後、TPPが解禁され海外から10キロ1,000円を切るお米が入ってくるようになると、私は日本人の3分の1が外米を食べるようになると見ています。

一方で、国産の中でも最高級のお米を食べたいと考える日本人も1割はいると思っています。ですから、私たちは海外から入ってくる大量のお米を扱う業者ではなく、1割の最高品質のお米を扱う業者を目指しています。私には、米屋業を8年間する中で培った3つの強みがあります。

1つ目は、目利き力・食味力です。今の消費者は産地・銘柄でものを買いますが、私たちは、産地に足を運び、その産地のお米を自分たちの舌で確認し、消費者が美味しいと思うかをビジネスの軸において考えています。

2つ目は、精米技術です。大手米問屋さんが持つ大型の機械で精米すると、高い摩擦熱によって、お米の味が損なわれます。私たちは、お米に甘さを残すことを意識した精米をしており、このことを掘り下げて考え、特許も申請しています。

3つ目にブレンディングという技です。お米のブレンディングというと、外米とのブレンドというイメージが強いですが、私たち米屋は年中を通して取り扱うお米の味を変えないため、昔からブレンドという技を使ってきました。その技を研ぎ澄ましていくことで、美味しいお米を作ることができると思っています。この技をワインのブレンディングのように文化と呼べるところまで持っていけるよう、日々研究をしています。

八代目儀兵衛の「非常識」なブランド戦略

お米の価値観を変えるというコンセプトの下、従来からのお米業界の常識に対し、私たちはどうすればオンリーワンのブランディングができるのかを、日々考えてきました。

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非常識:「価格重視で量を売るお米を品質重視で売る!」

まず1つ目の常識は、「お米は家庭で使うものだから品質よりも価格重視!」です。「うちは安いお米でいい」というご家庭がほとんどの中、私たちはお米をギフトとして販売することで、高品質なお米を届けることができることに気づきました。人によって美味しいお米の価値観が異なり、人は昔から自分達が食べ馴染んできたお米を美味しいと思います。そこで私たちは、産地銘柄のお米の詰め合わせセットを作りました。詰め合わせセットにするだけで、大きな反響があり、家庭用以外の需要があるということに気づきました。これが八代目儀兵衛のお米ギフトのスタートになりました。

さらに、お米ギフトに付加価値をつけるために、お米に興味のない20代の女性などに「可愛い」と言ってもらえる要素を入れようと思い、お米を風呂敷に包む今のスタイルのお米ギフトが生まれました。お米ギフトというのは、私が作った言葉です。私たちは、ギフト業界にスライドすることで、ギフト業界だけでなく、ブライダル業界などからもオファーが舞い込み、お米を買わない人にもお米を買ってもらえるようになりました。

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非常識:「産地銘柄でお米を売らない」

2つ目は、「お米は産地銘柄で選ぶ」という業界の常識に対して、私たちは「産地銘柄でお米を売らない」という戦略をとりました。産地銘柄の食べ比べセットを進化させた「十二単」という商品を開発しました。和食、中華、洋食屋、寿司屋などたくさんのお店がある中で、どの店からも「ウチのお店に合うお米を持ってきてほしい」と言われます。業務用のお米は、用途を言ってこられますが、家庭用のお米は銘柄などで選ぶしかありません。そこで、業務用のお米選びの選択肢を家庭に持ち込めば、家族の食事を楽しむことができるのではないかと考えました。
また私の中で、食育の大切さを考えている中で、お米にはたくさんの種類があり、それぞれの用途に応じて味も違うということを家庭でお母さんが子供に教えるキットになるのではないかと思いました。これが十二単の誕生になり、今ではこちらで監修したお米のレシピを一緒にお届けしています。

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非常識:「インターネットでお米を販売する」

3つ目は、「お米は店頭で購入する」という常識に対して、私たちはインターネットを使って販売しています。インターネットで販売することで、商圏が海外にも広がり、今では海外の富裕層にお米を販売し、アジアや欧州、米国などの国々にほぼ毎日商品をお届けしています。

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非常識:「精米したお米を販売するだけがお米屋じゃない」

4つ目の常識、「お米屋さんは、精米したお米を販売」しているのに対し、私たちは「精米したお米だけではなく、炊いたご飯の状態でお米の味を理解してもらう」ということを行っています。現在、八坂神社の前で米料亭 八代目儀兵衛という私たちのアンテナショップをオープンし、大変好評をいただいています。このお店の狙いは、お米と観光のコラボレーションです。3年前には東京の銀座にも店舗をオープンしました。屋号は、私が「米料亭」と命名しました。お米は、日本人であれば誰もがその美味しさを体験できる唯一の食材であり、その美味しいお米を安価で提供したいと思っています。

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非常識:「メディアを活用したプロモーション戦略」

5つ目の常識は、「チラシと特売を駆使してお客様を呼び込む」です。スーパーなどではチラシや特売などを使って、客を店に呼び込む戦略に対して、私たちはお金をかけずにお客さまを呼び込むために、メディアを活用しています。メディアの取材を受けるためには、新規性、話題性、社会性の3つを兼ね備えていることが重要です。これらを自分たちのビジネスに落とし込み、発信し続けた結果、2015年度には、50件のメディアに掲載していただきました。銀座に米料亭をオープンした際には、インターネット配信のプレスリリースを行っただけで、テレビ局は全社、雑誌社は20社が取材に来ました。

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非常識:「機械に頼らない、お米番付」

6つ目の常識は「従来型のお米コンテスト」では、食味計(機械)で数値化されたものが美味しいお米と評価されています。それに対して、私たちは、食のプロが自分たちの舌「ベロメーター」を使って評価し、「お米番付」にするコンテストを始めました。このコンテストで選ばれたお米が消費者の方々から美味しいと思ってもらえることが、私の最終のゴールです。私たちがその架け橋となり、選ばれたお米をギフトセットにしたり、ミシュランガイドに掲載されているお店にご紹介したり、航空会社のファーストクラスの機内食として納品したり、地方新聞に取り上げてもらうことで、生産者の方々や地域の活性化にも繋げています。

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非常識:「白米だけじゃない商品づくり」

7つ目に「白米は太るといってお米を食べない日本人が増えている」のに対して、白米を食べない人にお米を売ろうという考え方をしました。お出汁を使い玄米でおかゆを作り、加工食品とするアイデアが生まれました。この商品は海外や国内でダイエットを考えている方からも重宝されています。冷めると固くなるため、敬遠されがちな玄米を販売していこうというのが八代目儀兵衛の考え方です。

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非常識:「異業種コラボレーションで認知を拡大する」

最後に8つ目の常識は、「販売先を拡大するためには流通先が限定される」です。米屋や米問屋が量を扱うビジネスをするためには、流通先が大手量販店に限定されます。それに対して私たちは、販売先を拡大するのではなくて、認知を拡大した方が良いと考えました。そのためにゲームメーカー、炊飯器メーカー、飲料メーカーなど異業種とのコラボレーションを進めています。この異業種とのコラボレーションがメディアやSNSを通じて広がることで、認知が広がっています。

以上のような私どもの8つの戦略が繋がることで、八代目儀兵衛というブランドがどんどん広がっていっているということが、確認できています。

京都のビジネスの発展に必要なもの

京都の人や関西の人は、情報は無料で手に入るものだと考えている人が多いです。ネット上で、無料で手に入る情報は、価値がないただのインフォメーションです。一方、お金を払わないと手に入らない情報は、インテリジェンスといえます。情報と情報を組み合わせることで、インテリジェンスを生み出すことが可能です。しかし本当に良い情報というのは、一部の人しか握っていません。そのような人たちと折衝することで、自分たちにとってプラスになることがあると思います。ですから、京都の人たちはグローバルな中から情報を引っ張ってくるということをもっとやっていかなければいけないと思っています。

京都は世界的な観光都市と言われますが、世界のセレブや東京の富裕層がいう「京都ブランド」は、本当にハイエンドの一部のものだけです。私のお米ギフトも実際に京都のお米を使っているわけではなく、京都らしく見せているだけです。それが少しずつ認知されていき世の中の人から「京都らしくて良い」といわれています。このように、自分たちが京都で作ったから京都ブランドになるというのではなく、東京や世界のマーケットで認知されてはじめて京都ブランドになると思っています。

同志社大学のビジネススクールの先生が、最近の伝統産業の従事者には魂を売ってしまっている人が多いというお話をされていました。今、現存している老舗企業も時代に合わせて販売や経営の在り方を少しずつ変えてきたからこそ続いて来ているということから、「心変えずして形を変える」ということを、私は学びました。上場するために、事業のドメインを変えれば、売り上げを獲るために経営をやるようになったと思われ、逆に企業評価が下がることもあると思います。ですから私たちは、軸をずらさないということを意識しています。これが逆に京都らしいということだと思っています。

最後は、ビジネスの「culture」を実践しましょうということです。「culture」という言葉は英語では、「文化」という意味で使われますが、ラテン語には、「耕す」という意味があります。京都には、文化は守るべきものだと認識している人が多いですが、私は種を撒いて耕し、新しく創造していくものが文化だと思っています。創造して残っていくものが、10年後に残り、文化になっていくものだと認識しています。京都の企業に新しい風をどんどん取り込み、京都から東京の起業を超える会社を輩出することが私の夢です。