料理長 橋本晃治の
米料亭への想い

私はずっとお米屋で育ってきたので、お米の知識があり、さまざまなおいしいお米を食べ続けてきたという経験があります。おいしいお米ばかり食べてきたので、逆においしくないお米にはすぐに気づきます。外食では「お米がおいしくない」と感じることばかりでした。これは変えられると思いました。この現状を解決することが社会貢献につながるのではないだろうか。

料理長 橋本晃治の米料亭への想い。私はずっとお米屋で育ってきたので、お米の知識があり、さまざまなおいしいお米を食べ続けてきたという経験があります。おいしいお米ばかり食べてきたので、逆においしくないお米にはすぐに気づきます。外食では「お米がおいしくない」と感じることばかりでした。これは変えられると思いました。この現状を解決することが社会貢献につながるのではないだろうか。

おいしいごはんの味を
届けるという社会貢献

八代目儀兵衛の代表を務める兄・隆志からずっと言われ続けていたのは、「料理を通してどう社会に貢献するかを考えろ」ということでした。
兄の言葉を噛み締め、考え続けました。私ができる社会貢献とは、おいしい料理を提供すること。そう思いました。しかし、兄は「もっと深く考えろ」と言うのです。

そこで、私が他人と比べてどう違うだろうかと考えました。私はずっとお米屋で育ってきたので、お米の知識があり、さまざまなおいしいお米を食べ続けてきたという経験があります。おいしいお米ばかり食べてきたので、逆においしくないお米にはすぐに気づきます。外食では「お米がおいしくない」と感じることばかりでした。これは変えられると思いました。この現状を解決することが社会貢献につながるのではないだろうか。お米屋で生まれた息子として、お米を通してそれが和食で表現できればいいなと思ったのです。

より多くの人たちにおいしいごはんの味を伝えていくことが社会貢献。そう確信しました。だからこそ、価格はリーズナブルに。旅館での修行後、さらに京都の有名料亭で2年弱の修行を経て、2009年10月の京都・祇園の米料亭のオープンとともに総料理長に就任しました。

課題と1つ1つ向き合い誕生した
「米ざんまいコース」

米料亭オープンからの1年間は厳しい期間でした。それでもぶれずにやり続けました。すると、次第にご来店いただけるお客様が増えてくるようになり、2年目からはランチに行列ができるようになりました。雨の日も雪の日も台風の日も、いまだに行列が絶えません。本当にありがたいことです。私たちの思いがお客さまに伝わっている。行列は、その1つの証明であると思うのです。
ところが、夜の営業ではお酒と料理だけ注文をしてごはんを食べない人が続出したのです。そこで、お米をもっと食べてもらえる提供の仕方への方向転換を決断しました。
すべての料理にお米を使う米ざんまいコースは、当初は「お腹がいっぱいになってしまうのでは」と料理人たちから大反対を受けました。私も同感で、どうお米を表現していったらいいのか悩みました。

これまでにないものを生み出すというのは、とてもパワーのいることです。そこに社員一丸となってチャレンジしていきました。
2012年7月から、米ざんまいコースがデビューしました。少しずつブラッシュアップしていき、今は当初よりも一層、日本の文化を料理で細かく表現できるようになりました。たとえば、桃の節句であれば、当初はハマグリや菜の花など、季節にあった素材を使うだけでした。今は料理の盛りつけなど演出としても季節を表現しています。

お米屋の兄弟がタッグを組んで
届ける究極の白ごはん

米料亭では土鍋炊きの白ごはんがメインディッシュ。白ごはんは繊細です。少しでも間違うと、おいしいごはんができませんから、細部まで非常にこだわっています。
使うお米は兄が選定したものです。兄が最高のお米を選び、私がそのお米をごはんというかたちで最高の状態でお客様に提供しています。お米を銘柄や産地ではなく「おいしさ」で選んでいるため、ブレンド技術を使うこともあります。

ワインもコーヒーもお出汁も、さまざまな種類を合わせることによって足し算ではなく「掛け算」の味わいに変わります。米料亭で実際に召し上がっていただくことでブレンド米のおいしさや奥深さを知ってもらえたらと思います。夜の米ざんまいコースでは、お米がごはんに変わる瞬間の「にえばな」、1膳目、2膳目、おこげと、同じお米であっても、さまざまな味の違いや楽しみ方があるということも体験していただけます。

「お米のエンターテインメント」と
「米育」をコンセプトに

私たちが目指したい米料亭の姿は、「お米のエンターテインメント×食育」です。
大分県の旅館での修行から帰ってきたとき、「社会貢献を考えろ」ということのほかに、もう1つ兄に言われたことがあります。
「これからの飲食店で生き残る道は2つしかない。エンターテインメント感を持たせた料理で楽しく食事をしてもらうか、食育の要素を色濃くして食材に向き合ってもらうかだ」
エンターテインメント性があり、食育もあるコース料理をつくりあげたい。それをまさに米ざんまいコースで表現しようとしています。米ざんまいコースを始めた当初はまだ試行錯誤でしたが、ようやく理想に近いコースになってきたと思っています。
日本人であっても日本の文化を知らない方はたくさんいます。たとえば、桃の節句や端午の節句を知っている方は多くても、重陽の節句を知っている方は非常に少なかったりします。日本人にも「日本には、こういう文化があったのか」ということを知ってほしいと願っています。訪日外国人の方にも日本の文化を知ってもらうために、料理の背景にある日本の風習や文化、行事ごとなどの説明書きを英訳したものをご用意しています。
季節感を大事にした和食、ごはんを中心とした和食という軸はぶれずに、常に持ち続けています。

最も嬉しかったことは、ご年配のご夫婦がお孫さんと一緒にご来店して、土鍋釜で炊いたおこげを召し上がっていただいたとき、「おじいちゃんの時代はこういうものがあって…」という会話をなさっていたことです。古き良き時代の文化を伝えることのお手伝いを私たちができているのかと思うと、非常に嬉しく、兄が言う「社会貢献」ができているのかなと思っています。 私たちは、米料亭を通して、「本当においしいごはんの味」を知ってもらいたいと思っています。私たちは変わったことをしているとは思いません。当たり前のことをしているだけです。今は当たり前のことがなされなくなっているので、ごはんの味がどんどん落ちてしまっているのです。私たちは古き良き時代の文化を伝え続けていきたいと思っています。
特に、子どもたちにおいしいごはんを伝えていきたい。私たちの考える食育は「ほんまもんのお米を食べてもらう経験」です。子どもへの直接的な食育もありますが、大人への食育も子どもへの食育につながると思っています。特に小さなお子さんのいる親御さんには、より伝えていきたいですね。現代日本は飽食の時代。いろいろな食材や料理があり、お米の大事さを忘れているからこそ、日本人の一番大事な主食であるお米、日本の和食の中心にあるお米に特化したいと思うのです。米料亭でごはんを提供するほかに、私は高校での食育授業や企業の料理教室などでも、おいしいごはんを知ってもらうための地道な啓蒙活動もしています。お米を通した食育、“米育”を伝えていかなければと思っています。

“日本の文化の中心”の京都で初めた米料亭は、おかげさまで2013年10月に“日本の文明の中心”の東京で2店舗目をオープンしました。私は総料理長として両方の店舗を行き来しています。たくさんの方たちに、炊きたてごはんの香りがする店内で、五感を通してお米を体験していただければと思います。
そして、おいしいごはんを食べることによって、銘柄や産地だけはないお米の選び方に気づいていただけたらいいなと願っています。私たちは飲食店ではありません。飲食のかたちを借りてはいるものの、あくまでお米屋であり続けたいと思っています。